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神戸地方裁判所 昭和54年(行ウ)23号 決定

原告 全日本港湾労働組合関西地方本部

〈ほか一七名〉

被告 兵庫県地方労働委員会

主文

原告らの異議申立を棄却する。

理由

一  原告らの異議申立の趣旨及び理由は、別紙(一)記載のとおりであって、これに対する被告の答弁は別紙(二)記載のとおりである。

二  原告らの異議申立は、要するに、被告代理人元原利文の訴訟代理行為は、弁護士である同人が公務員として職務上取扱った事件につき、本件訴訟において被告の訴訟代理をなすものであって、弁護士法二五条四号に違反するというものである。

一件記録によれば、被告は、原告らを含む申立人らにかかる兵庫県地方労働委員会昭和五二年(不)第九号上組不当労働行為救済申立事件につき、昭和五四年六月八日付で右申立を棄却する旨の命令を発したが、被告委員会公益委員たる前記元原弁護士は審査委員として右命令に関与したこと、原告らは右命令の取消しを求めて本件訴訟を提起したところ、被告は右元原弁護士を本件訴訟につき指定代理人に指定したこと(労働組合法二六条、労働委員会規則四六条、国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律五条)、同弁護士は昭和五四年一一月一九日の第一回口頭弁論期日において、被告代理人としてその作成にかかる答弁書を陳述し、更に、昭和五五年二月一三日の第二回口頭弁論期日にも被告代理人として出席したことが、それぞれ認められる。

ところで、弁護士法二五条四号は、弁護士が公務員として職務上取り扱った事件につき、その職務を行ってはならない旨規定する。右規定は、弁護士の職務の公正、品位保持を目的とし、合わせて相手方当事者の利益保護を図る趣旨であるところ、本件訴訟においては、元原弁護士は弁護士の職務としてではなく、被告の指定代理人として行政庁の職員たる地位に基づき、その職務を遂行するものであって、右規定には何ら抵触しないと解すべきである。原告らは、元原弁護士が弁護士である以上、本件が委任による代理か指定代理かの形式により区別すべきでない旨主張するが、もともと本件訴訟が原告らとその使用者との間の労使紛争に関し、被告委員会が原告らの申立に基づいて、種々調査の上、行政庁としてなした行政処分に対し、原告らがこれを不服として被告委員会を相手として取消しを求める性格のものである以上、被告委員会の調査に関与した委員たる元原弁護士が被告委員会の構成員として右行政処分を維持する立場に立つことは避けられないところであり、右訴訟構造に鑑み、元原弁護士が被告の職員として本件に関与することは、その職責上当然許されるところといわなければならない。

三  よって、原告らの異議申立は理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 中村捷三 裁判官 松本克己 池田辰夫)

〈以下省略〉

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